第21卦 火雷噬嗑 (か・らい・し・ごう)
火雷噬嗑(か・らい・し・ごう)は、『易経』六十四卦の第二十一卦であり、上卦が離(り)火、下卦が震(しん)雷に属する雑卦です。咬み合い、刑獄、決断、障害の除去を象徴し、雷と電(火)が合わさり、威厳と明察が共に働いて障害を破り除く象です。核心要義は 「雷電噬嗑(らいでんしごう)、先王以って明罰勅法(めいばつちょくほう)す」 であり、刑罰による決断、障害の除去、剛と柔の調和、威厳と明察の結合を主とし、中吉の卦です。法をもって世を治め、剛直に断じ、明察して阻害を破り除くことによって初めて物事が順調に通じる道理を明らかにしています。
卦象と卦辞
卦象
明罰勅法、剛柔相済、決断除梗を象徴する。
卦辞
噬嗑:亨(とお)る。獄(ごく)を利用(りよう)す。
訳: 噬嗑卦は、咬み合って障害を除くことを象徴し、物事が順調に通じ、刑獄の判決、是非の決断に有利です。寓意としては、障害があればそれを破り除き、奸邪があればそれを懲らしめ、威厳と明察が互いに補い合えば万事が順調に通じることを示しています。
爻辞
-
初九: 屨校滅趾(くこうめっし)、咎(とが)無し。
屨校滅趾、咎無し。 訳: 足に刑具をはめ、足指を覆い隠す。小さな懲罰を受けても、災いはない。寓意としては、小さな過ちを初めて犯した者に軽い罰を施し、小さな懲らしめによって大いなる戒めとし、人に慎むことを知らせ、大過を防ぐことができるということです。
-
六二: 噬膚滅鼻(しふめつび)、咎無し。
噬膚滅鼻、咎無し。 訳: 柔らかな肌を咬み合い、鼻さえもその中に没入させる。刑の執行が順調で、災いはない。寓意としては、奸邪を懲らしめることが極めて容易で、障害も易々と除去でき、刑の用い方が適切であることです。
-
六三: 噬臘肉(しろうにく)、毒に遇(あ)う。小吝(しょうりん)有り、咎無し。
噬臘肉、毒に遇う。小吝有り、咎無し。 訳: 堅い臘肉(ろうにく)を咬み合い、毒悪に遭遇する。少しの悔い惜しみはあるが、最終的には大きな災いはない。寓意としては、障害除去の過程で抵抗と悪意に遭い、少し不順ではあるが、正しい道を守り通せば最終的に大きな災いには至らないということです。
-
九四: 噬乾胏(しかんし)、金矢(きんし)を得(う)。艱(かん)に利し貞(てい)を守る、吉。
噬乾胏、金矢を得る。艱に利し貞を守る、吉。 訳: 骨付きの干肉を咬み合い、金属の矢じりを得る。艱難の中にあって正道を守ることに利があり、吉祥である。寓意としては、頑固な障害を破り除き、境遇は艱難であっても、正を守り法を行えば最終的に吉祥を得るということです。
-
六五: 噬乾肉(しかんにく)、黄金(おうごん)を得る。貞厲(ていれい)、咎無し。
噬乾肉、黄金を得る。貞厲、咎無し。 訳: 干肉を咬み合い、黄金を得る。正道を守り、かつ危惧の念を心に抱くならば、災いはない。寓意としては、尊い地位にあって刑を用いる際、中正を保ち、明察し慎重に断じれば、危険があっても災いには至らないということです。
-
上九: 何校滅耳(かこうめつじ)、凶。
何校滅耳、凶。 訳: 肩に刑具を担ぎ、耳を覆い隠す。悪が積もり罪が重いため、大いに凶険である。寓意としては、教えを繰り返しても改めず、罪が甚だしく悪極であるため、厳刑が加えられ、ついに凶禍に至るということです。
核心象義
噬嗑卦は、上卦の離が火で明、下卦の震が雷で動を表し、雷と電(火)が共に起こり、威厳と明察が共に至る様を表しています。まるで口中で硬い物を咬み合い、梗阻を破り除いてから通順になるかのようです。人事における刑獄訴訟、是非の決断、奸邪の除去、弊害の整頓に対応し、明察秋毫、威厳ある法の施行、剛柔の併用、阻害の破除を主とします。同時に、刑を用いることの過度の厳格さ、また寛容すぎることの両方を戒め、中正をもって明断することが必要であると示唆しています。
噬嗑卦の六爻は、障害除去と判決断獄を中心に展開します。初九は小罰を以て大戒を成し、微細な内に防ぎ漸進を杜絶する。六二は刑の執行が順調で、奸邪を容易に除く。六三は毒(抵抗)に遭遇して小さな阻害が生じるが、最終的に大災なし。九四は艱難の中で正道を守り、吉祥を得て障害を除去する。六五は中をもって持ち用刑し、明察して災いなし。上九は悪が積もり罪が重く、ついに凶禍に至る。全体としての核心は 明罰勅法、剛断明察、梗阻の破除 です。
万物類象
- 卦性: 雑卦、上明下動、雷電相合、咬合除梗
- 五行: 火木(離は火に属し、震は木に属す)
- 方位: 南と東
- 時序: 仲夏、雷電が交わり作る威厳と明察が共に盛んな時
- 人物: 裁判官、刑務官、法の執行者、決断力のある士、奸邪を除く人
- 身体: 心臓、肝胆、口と足、気血、主に口舌による刑傷、気血の通暢
- 動物: 龍、雉(きじ)、猛禽類、咬み合う獣類
- 器物: 刑具、兵器、食器、雷電を象徴する器具
- 場所: 法廷、牢獄、刑場、雷火の地
- 人事: 刑獄訴訟、是非の決断、刑罰懲戒、奸邪の除去、梗阻の整頓
- 色彩: 赤、青、紫
- 五味: 苦、酸
- 数目: 三、四、九
古籍原文
卦辞爻辞
噬嗑: 亨。利用獄。 初九: 屦校滅趾、無咎。 六二: 噬膚滅鼻、無咎。 六三: 噬臘肉、遇毒。小吝、無咎。 九四: 噬乾胏、得金矢。利艱貞、吉。 六五: 噬乾肉、得黄金。貞厲、無咎。 上九: 何校滅耳、凶。
彖伝
《彖》曰:頤(い)の中に物有り、之を噬嗑と曰う。噬嗑にして亨(とお)るは、剛柔分れ、動いて明なり、雷電合して章(あきらか)なり。柔中(じゅうちゅう)を得て上(のぼ)り行く、位に当(あた)らずと雖(いえど)も、獄を利用するなり。
訳: 口腔の中に硬い物があり、咬み合って除く必要がある。これが噬嗑である。咬み合って梗阻を除くことで亨通するのは、剛と柔が上下にはっきりと分かれ、行動しつつも明察し、雷と電が合わさって威徳が顕現するからである。陰柔が中央を得て上に向かって進む。位置が完全に妥当とはいえないが、それでも刑獄を判決し、是非を決断するのに有利である。
象伝
《象》曰:雷電噬嗑(らいでんしごう)。先王(せんのう)以(もっ)て罰(ばつ)を明(あきらか)にし法(ほう)を敕(ただし)く。
訳: 雷と電が交じり合い、威厳と明察が共に至る。これが噬嗑卦の象である。古代の君王はこの象に倣い、刑罰を修明し、法令を整え直し、法をもって世を治めたのである。
《象》曰:
- 屦校滅趾、行わざるなり。
- 噬膚滅鼻、剛に乗(の)るなり。
- 毒に遇う、位当(あた)らず。
- 艱に利し貞を守り吉、未だ光(ひかり)にせざるなり。
- 貞厲無咎、当をうるなり。
- 何校滅耳、聡明ならざるなり。
訳: 足に刑具をはめ趾を覆うのは、人をして再び悪を行わせ罪を犯させないためである。 肌を咬み合うことが順調なのは、陽剛の勢いに乗じて奸邪を除くからである。 毒悪に遭遇するのは、居る位置が妥当でないためである。 艱難を守り正道を守って吉祥を得るのは、徳と業がまだ光大していないためである。 正を守り慎んで行って災いがないのは、刑の用い方が妥当であるためである。 刑を担いで耳を覆って凶となるのは、忠告を聞き入れず、悪が積もって改めようとしないためである。
よくある質問
噬嗑卦は主に吉か凶か?
答: 噬嗑卦は中吉の卦であり、明罰勅法、剛断明察、障害除去と正道堅持を守れば吉です。しかし、悪が積もり改めず、刑を用いるのを誤れば凶となります。
噬嗑卦の「利用獄」とはどういう意味か?
答: 刑獄訴訟を処理し、是非曲直を決断するのに有利であることを指します。威厳と明察が互いに補い合う寓意があり、事件の明断、奸邪の懲罰、障害の除去に適していることを示しています。
噬嗑卦はどのような場面に適しているか?
答: 刑獄訴訟、是非の決断、法執行による懲戒、弊害の整頓、梗阻の除去などの場面に適しています。奸邪を甘やかし養うこと、刑を用いることが過度に厳格であること、盲目的な決断を行う場面には適していません。
訴訟や紛争について噬嗑卦が出た場合、どのような示唆があるか?
答: 是非を明察し、法に基づいて決断することが肝要です。爻では九四、六五が正道を守り明察するのが最も吉です。初九は小罰を以て大戒を成します。上九は悪の積もり改めないことを戒めています。剛と柔を併用し、公正に案件を断じる必要があります。
噬嗑卦と賁(ひ)卦の違いは何か?
答: 噬嗑卦は咬み合いと障害除去、刑罰と決断を主とし、阻害を破り除き法をもって世を治めることを重んじます。賁卦は文飾と教化、礼儀による修飾を主とし、外的な文飾と徳をもって人を教化することを重んじます。両者は互いに綜卦(そうか)の関係にあり、一つは「刑」、一つは「文」であり、互いに補い合い助け合う関係です。