第5卦 水天需(すいてんじゅ)
水天需(すいてんじゅ)は、『易経』六十四卦の第五卦であり、上卦が坎(かん・水)、下卦が乾(けん・天)で構成される雑卦です。待機、忍耐、蓄積を象徴し、事物の発展において険阻に直面した際の理性的な対応を表します。核心要義は 「雲天に上る、君子以って飲食宴楽す」 であり、主に待機、蓄力、忍耐、時機を待つことを示し、中吉の卦とされます。これは、険阻に直面した際には忍耐強く待ち、力を蓄え、機会を窺って行動すべきという完全な法則を明らかにしています。
卦象と卦辞
卦象
待機、蓄力、忍耐、時機を待つことを象徴。
卦辞
需:孚(まこと)有り、光亨(こうきょう)し、貞(てい)にして吉。大川を渉るに利あり。
訳: 需卦は待機を象徴し、誠心誠意を持ち、光明が通じ、正道を守れば吉祥であり、大河(艱難険阻の象徴)を渡るのに適している。険阻に直面した際、誠意と正道を守れば光明な未来を迎え、時機が熟せば困難を克服できるという寓意です。
爻辞
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初九: 郊に需(ま)つ、恒(つね)を用うるに利あり、咎(とが)無し。
郊に需つ、恒を用うるに利あり、咎無し。 訳: 郊外で待機する。恒心を守るのが適切で、災い無し。待機の初期は危険の中心から離れ、忍耐と恒心を保ち、焦って行動せず、正道を守れば咎はないという寓意。
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九二: 沙(すな)に需つ、小(ちい)さく言有り、終(つい)に吉。
沙に需つ、小さく言有り、終に吉。 訳: 砂浜で待機する。小さな言い争いや誤解はあるが、最終的には吉祥。待機が中期に入り、危険に近づくが深くはまらず、小さな波乱はあっても正道を守れば良い結果を迎えるという寓意。
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九三: 泥(どろ)に需つ、寇(ぞく)を致(いた)して至る。
泥に需つ、寇を致して至る。 訳: 泥地で待機する。盗賊を招き寄せてしまう。待機が危険に過度に近づき、焦りや軽率な行動、あるいは位置の不適切さから、自ら災いを招くことを警告。待機には節度を保ち、危険の縁から離れるべきという寓意。
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六四: 血(ち)に需つ、穴より出(い)ず。
血に需つ、穴より出ず。 訳: 血の海で待機する。最終的に洞穴から脱出する。待機が危険な境地に入り、艱難辛苦を経て、努力の末に困境を脱する。待機の中で力を蓄え、険阻を突破することを象徴。
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九五: 酒食(しゅしょく)に需つ、貞(てい)にして吉。
酒食に需つ、貞にして吉。 訳: 酒と食物の中で待機する。正道を守れば吉祥。待機の時機が成熟し、資源が豊富で心に余裕があり、現状を享受しながらも力を蓄える。この時、正道を守ることが最も吉祥であるという寓意。
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上六: 穴に入り、速(すみ)やかざる客三人来たり、之(これ)を敬(うやま)えば終(つい)に吉。
穴に入り、速やかざる客三人来たり、之を敬えば終に吉。 訳: 洞穴に入って待機する。三人の招かれざる客が訪れる。彼らを丁重にもてなせば、最終的に吉祥。待機が最終段階に入り、困境に置かれても礼儀をもって人に接し、善縁を広く結べば、転機を迎えられるという寓意。
核心象義
需卦は、上卦の坎(かん)が水・険を、下卦の乾(けん)が天・剛健を表し、剛健が険に遇っても急いで進まず、険阻に直面した際には忍耐強く待ち、力を蓄えることを象徴します。人事における事業の待機、機会の把握、リスク対応、資源の蓄積に対応し、理性的な待機、時機到来での行動、静をもって動を制することを主とします。その核心は 「需は須(ま)つなり、険前に在り」 であり、険阻に直面した際には忍耐を保ち、実力を蓄えることを提唱すると同時に、待機は消極的ではなく積極的な準備であり、時機が熟せば果断に行動すべきであると警告しています。
需卦の六爻は、待機の環境と状態を順に示し、理性的な待機の六つの段階を完全に提示しています。初九の郊外での待機・恒心の保持、九二の砂浜での待機・小さな言葉の波乱、九三の泥地での待機・危険の招致、六四の血の海での待機・困境からの脱出、九五の酒食での待機・吉祥と安泰、上六の洞穴での待機・賓客を敬って待つ。全体の核心は、待機には正道を守り、時機を待つには力を蓄える必要があるということです。
万物類象
- 卦性: 雑卦、陰陽相交、剛健遇険
- 五行: 水木(坎は水に属し、乾は金に属するが、ここでは乾金が水を生む象を取る)
- 方位: 西北と正北の間、後天八卦では北方に位置
- 时序: 秋冬の交わり、亥(い)・子(し)の年月の時、五金五水の年月日時
- 人物: 君子、智者、時機を待つ者、忍耐強い人、力を蓄える者、起業家
- 身体: 腎、膀胱、脳、骨髄。忍耐力の不足、腎水の虚損、思考の鈍化に関連。
- 動物: 龍、馬、豬(豚)、水中動物、耐寒動物
- 器物: 酒食、器皿、珠宝、蓄積物、待機の道具、危険回避の器具
- 場所: 郊外、砂浜、泥地、洞穴、水辺、高所、待機する場所
- 人事: 忍耐強く待機する、力を蓄える、機会を窺って行動する、静をもって動を制する、理性的に対応する
- 色彩: 黒、白、金、玄(くろ)
- 五味: 鹹(しおからい)、辛(からい)
- 数目: 五、一、六、九(先天数、五行数)
古籍原文
卦辞爻辞
需: 有孚,光亨,貞吉。利渉大川。 初九: 需于郊,利用恒,无咎。 九二: 需于沙,小有言,終吉。 九三: 需于泥,致寇至。 六四: 需于血,出自穴。 九五: 需于酒食,貞吉。 上六: 入于穴,有不速之客三人来,敬之終吉。
彖传
《彖》曰:需,須也,険在前也。剛健而不陥,其義不困窮矣。需有孚,光亨,貞吉,位乎天位,以正中也。利渉大川,往有功也。
訳: 需とは、待つという意味である。なぜなら危険が前方にあるからだ。剛健の徳によって危険に陥らず、その道理は困窮に陥らない。需卦が誠意を持ち、光明が通じ、正道を守れば吉祥なのは、九五が天の位にあり、中正の道を保っているからである。大河を渡るのに利があるのは、時機が熟して行動すれば、必ずや功を成し業を立てることができるからである。
象传
《象》曰:雲上于天,需;君子以飲食宴楽。需于郊,不犯難行也。利用恒无咎,未失常也。需于沙,衍在中也。雖小有言,以吉終也。需于泥,災在外也。自我致寇,敬慎不敗也。需于血,順以聴也。需于酒食貞吉,以中正也。不速之客来,敬之終吉,雖不当位,未大失也。
訳: 雲気が天に昇る、これが需卦の象である。君子はこの象を見て、心安らかに飲食し、宴楽して休養し、力を蓄えて時機を待つべきである。 郊外で待機するのは、無謀に危険な行動を犯さないためである。 恒心を守って災いがないのは、常理を失っていないからである。 砂浜で待機するのは、心に余裕があり、中を守り正を保っているからである。 小さな言い争いがあっても、最終的には吉祥となる。 泥地で待機するのは、災いが外部から来るからである。 自分で盗賊を招くのは、恭敬と慎重さを以ってこそ失敗を免れることができるという警告である。 血の海で待機するのは、形勢に順応し、天命に従うためである。 酒食の中で待機し正道を守って吉祥なのは、中正の位にあるからである。 招かれざる客が訪れ、丁重にもてなせば最終的に吉祥となる。位は適切ではないが、重大な損失は生じていない。
文言传
文言曰:需者,待也,物之始生,遇険而待也。需有孚,光亨,貞吉,位乎天位,以正中也。利渉大川,往有功也。需于郊,利用恒,无咎,未失常也。需于沙,小有言,終吉,以中正也。需于泥,致寇至,自我致寇,敬慎不敗也。需于酒食貞吉,以中正也。入于穴,有不速之客三人来,敬之終吉,雖不当位,未大失也。
訳: 需とは、待つことである。万物が生まれ始める時、危険に遇って時機を待つのである。需卦が誠意を持ち、光明が通じ、正道を守れば吉祥なのは、九五が天の位にあり、中正の道を保っているからである。大河を渡るのに利があるのは、時機が熟して行動すれば、必ずや功を成し業を立てることができるからである。 郊外で待機し、恒心を守るのが適切で災いがないのは、常理を失っていないからである。 砂浜で待機し、小さな言い争いがあっても最終的に吉祥なのは、中を守り正を保っているからである。 泥地で待機し、盗賊を招くのは、自分自身が招いた危険であり、恭敬と慎重さを以ってこそ失敗を免れることができるという警告である。 酒食の中で待機し正道を守って吉祥なのは、中正の位にあるからである。 洞穴に入って待機し、三人の招かれざる客が訪れ、丁重にもてなせば最終的に吉祥となる。位は適切ではないが、重大な損失は生じていない。
よくある質問
需卦は主に吉か凶か?
答: 需卦は中吉の卦であり、全体としては吉を主とします。核心は待機して力を蓄え、機会を窺って行動することです。忍耐強く待ち、正道を守って時機を待てば吉です。九三の焦りによる危険は凶、六四の危険遭遇からの脱出は無咎、上六の賓客を敬ってもてなせば最終的に吉となります。盲目的な行動や忍耐力の欠如は避けるべきです。
需卦の「利渉大川」とはどういう意味ですか?
答: 時機が成熟した後、重大な冒険や大河(艱難険阻の象徴)を渡るのに適しているという意味です。待機は消極的な無為ではなく、力を蓄えた後の積極的な行動であり、時機が熟せば困難を成功裏に克服できることを強調しています。
需卦はどの五行に対応しますか?どのような場面に適していますか?
答: 需卦の五行は水木に属します(坎は水に属し、乾は金に属しますが、乾金が水を生む象を取ります)。事業の待機、機会の把握、リスク対応、資源の蓄積、重大な決断前の準備など、「待つ」ことを必要とする場面に適しています。盲目的な冒険、焦りからの行動、準備不足の状況には適しません。
事業について需卦が出た場合、どのような示唆がありますか?
答: 事業について需卦が出た場合は、忍耐強く待機し、力を蓄えることが主な示唆です。初九は恒心を守るのが適切、九二は小さな波乱に落ち着いて対処するのが適切、九五は現状を享受しつつ実力を蓄えるのが適切です。九三の焦りや軽率な前進は避け、上六は礼儀をもって人に接し、善縁を広く結ぶのが適切です。
需卦と訟卦の違いは何ですか?
答: 需卦は険阻に直面した際の理性的な待機であり、忍耐と蓄力、機会を窺って行動することを強調します。訟卦は衝突に直面した際の争論・弁論であり、道理に基づき、理をもって人を納得させることを強調します。両者とも問題への対応を主としますが、一つは静をもって動を制し、もう一つは動をもって争いを止めるという違いがあります。