第58卦 兌為沢(だいたく)
兌為沢は、『易経』六十四卦の第五十八卦であり、上卦も下卦も兌(だ)で構成される純卦です。これは喜び、和らぎ、会話、外は潤い内は充実した状態、すなわち二つの沢(さわ)が繋がり、水が通い合う欣悦和楽の象徴です。核心的要義は 「麗澤(れいたく)、兌(だ)、君子(くんし)以(も)って朋友(ほうゆう)講習(こうしゅう)す」 であり、和やかに人に接し、言葉に誠意を持ち、楽しみを分かち合い、心を一つにして互いに助け合うことを主(しゅ)とします。これは上吉の卦であり、和やかに交わり、誠意をもって付き合い、楽しみながらも度を越さない規律を明らかにしています。
卦象と卦辞(かしょうとかじ)
卦象(かしょう)
兌為沢が示す道理を象徴しています。
卦辞(かじ)
兌:亨(とお)る。貞(ただ)しきに利あり。
解釈:兌卦は和悦(わえつ)、和らぎを象徴し、物事が通じ、発展する。ただし正道(せいどう)を守ることが肝要である。和やかに交わることは円滑な関係を導くが、正道を堅持し、媚(こ)びへつらって悦ばせようとしてはならないという寓意(ぐうい)です。
爻辞(こうじ)
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初九(しょきゅう): 和兑(わだ)、吉(きち)。
和兑(わだ)、吉(きち)。
解釈:平穏に和やかであり、媚びへつらわないこと。吉祥。悦びの始めに位置し、心平気和、正道(せいどう)を持って人に接する。吉。 -
九二(きゅうじ): 孚兑(ふだ)、吉(きち)、悔亡(かいぼう)す。
孚兑(ふだ)、吉(きち)、悔亡(かいぼう)す。
解釈:心に誠意(せいい)を持って人と和悦(わえつ)すること。吉祥。後悔が消える。剛健(ごうけん)でありながら中庸(ちゅうよう)を保ち、誠意を以って悦ぶ。遺憾(いかん)も欠損もない。 -
六三(りくさん): 来兑(らいだ)、凶(きょう)。
来兑(らいだ)、凶(きょう)。
解釈:自ら進んで媚(こ)びへつらって悦ばれようとすること。凶。陰柔(いんじゅう)で正しくなく、悦ぶために悦ぶというような態度は、邪(よこしま)であり道を失い、凶を招く。 -
九四(きゅうし): 商兑(しょうだ)、未宁(みつね)、介疾(かんしつ)に喜(よろこび)あり。
商兑(しょうだ)、未宁(みつね)、介疾(かんしつ)に喜(よろこび)あり。
解釈:和悦(わえつ)のあり方を思い巡らし、心がまだ落ち着かない状態。小さな病いや悩みは、最終的に喜びに変わる。剛健でありながら思慮(しりょ)深く、小さな煩(わずら)いはあっても、和と喜びを得る。 -
九五(きゅうご): 孚(まこと)を剥(はく)に於(お)いてするも、厲(あやう)きあり。
孚(まこと)を剥(はく)に於(お)いてするも、厲(あやう)きあり。
解釈:小人や陽(よう)の気を剥ぎ消す者に対して、誠意(せいい)を尽くすこと。危険がある。尊(たっと)い地位にありながら軽(かる)々しく小人(しょうじん)を信じ、放置すれば危険を招く。 -
上六(じょうりく): 引兑(いんだ)。
引兑(いんだ)。
解釈:人を導いて和悦(わえつ)させること。時機(じき)を待って動く。悦びの極(きわ)みに位置し、人々を導いて正道による互いの悦びへ向かわせる。咎(とが)はない。
核心象義(かくしんしょうぎ)
兌卦は上下とも兌(だ)が**沢(さわ)**を、悦(えつ) を表します。二つの沢が互いに潤い合い、和やかさを交換する象は、内なる心の喜び、滑らかな会話、人との良好な関係、誠意(せいい)をもって互いに悦(よろこ)び合うことの象徴です。悦びには正道(せいどう)を守ることが必要であり、悦ばせるために媚(こ)びへつらってはなりません。和やかさと中庸(ちゅうよう)の正しさがあれば吉ですが、邪(よこしま)な媚びや無理な悦びは凶となります。これは人事(じんじ)における人間関係、コミュニケーション、友と共に学びを深めること、和やかに物事を処理することに対応し、和やかな誠意、礼(れい)をわきまえた楽しみ、善(よ)いことで互いに悦び合うことを主とします。同時に、媚びや、小人(しょうじん)を放置することが凶に通じることを警告しています。
兌卦の六つの爻は、和悦(わえつ)のあり方を巡って展開します。初九は平穏な和悦で吉、九二は誠意による和悦で吉、六三は自ら進む媚びによる和悦で凶、九四は熟慮し試行する和悦で小難が喜びに、九五は小人を軽信することの危険、上六は人々を導く和悦で時を待つ。全体の核心は 「二つの沢が通い合い、和やかさと誠意を以って、友とともに学びを深める」 ことにあります。
万物類象(ばんぶつるいしょう)
- 卦性(かけい): 純卦(じゅんけ)、上下皆悦(じょうかかいえつ)。二沢(にたく)相連(あいつら)なり、欣悦和楽(きんえつわらく)
- 五行(ごぎょう): 金金(こんこん/きんきん)
- 方位(ほうい): 西方(せいほう)
- 時序(じじょ): 秋(あき)、沢水和悦(たくすいわえつ)、万物收成(ばんぶつしゅうせい)の時
- 人物(じんぶつ): 和悦君子(わえつくんし)、言談之士(げんだんのし)、朋友講習者(ほうゆうこうしゅうしゃ)、巫祝之人(ふしゅくのじん)
- 身体(からだ): 肺(はい)、口舌(こうぜつ)、口鼻(こうび)。気機(きき)の和暢(わちょう)、言語喜悦(げんごきえつ)を主る。
- 動物(どうぶつ): 羊(ひつじ)、沢禽(たくきん)
- 器物(きぶつ): 口舌(こうぜつ)、楽器(がっき)、沢水之器(たくすいのうつわ)
- 場所(ばしょ): 沢地(たくち)、西方(せいほう)、講習所(こうしゅうしょ)、歓聚地(かんしゅち)
- 人事(じんじ): 和悦相処(わえつそうしょ)、朋友講習(ほうゆうこうしゅう)、言語通溝(げんごつうこう)、誠信相交(せいしんそうこう)
- 色彩(しきさい): 白(しろ)色、金色(きんいろ)
- 五味(ごみ): 辛(から)い
- 数目(すうもく): 二、七
古籍原文(こせきげんぶん)
卦辞爻辞
兌: 亨(とお)る。貞(ただ)しきに利あり。
初九: 和兑(わだ)、吉(きち)。
九二: 孚兑(ふだ)、吉(きち)、悔亡(かいぼう)す。
六三: 来兑(らいだ)、凶(きょう)。
九四: 商兑(しょうだ)、未宁(みつね)、介疾(かんしつ)に喜(よろこび)あり。
九五: 孚(まこと)を剥(はく)に於(お)いてするも、厲(あやう)きあり。
上六: 引兑(いんだ)。
彖伝(たんでん)
《彖(たん)》曰(いわ)く:兌(だ)は説(よろこ)びなり。剛中(ごうちゅう)にして柔外(じゅうがい)、説(よろこ)び以(も)って貞(ただ)しきに利あり。是(ここ)を以(も)って天(てん)に順(したが)い人(ひと)に応(おう)ず。説(よろこ)びを以(も)って民(たみ)に先(さきん)ずれば、民(たみ)は其(そ)の労(ろう)を忘(わす)る。説(よろこ)びを以(も)って難(なん)を犯(おか)せば、民(たみ)は其(そ)の死(し)を忘(わす)る。説(よろこ)びの大(おお)きさ、民(たみ)勧(すす)むるかな。
解釈: 兌は和悦であり、剛健(ごうけん)が中(なか)にあり、柔順(じゅうじゅん)が外(そと)にある。和悦をもって正道(せいどう)を守ることにより、天に順い、人の心に応じるのだ。悦びを以って民(たみ)を先導すれば、民は苦労を忘れる。悦びを以って難局に立ち向かわせれば、民は死をも恐れない。和悦の働きは大きい、民自(みずか)ら励むのである。
象伝(しょうでん)
《象(しょう)》曰(いわ)く:麗澤(れいたく)、兌(だ)。君子(くんし)以(も)って朋友(ほうゆう)講習(こうしゅう)す。
解釈: 麗(つら)な(繋がり合った)沢の象は、兌卦の象徴である。君子(くんし)はこの象に倣(なら)い、朋友(ほうゆう)とともに相互に講習(こうしゅう)し、切磋琢磨(せっさたくま)して道義を深める。
《象(しょう)》曰(いわ)く:
- 和兑(わだ)の吉(きち)、行(おこな)い未(いま)だ疑(うたが)わざるなり。
- 孚兑(ふだ)の吉(きち)、志(こころざし)を信(まこと)にするなり。
- 来兑(らいだ)の凶(きょう)、位(くらい)当(あ)たらずして然(しか)らしむるなり。
- 九四の喜(よろこび)、慶(よろこ)びありて然(しか)らしむるなり。
- 孚(まこと)を剥(はく)に於(お)いてするは、位(くらい)正(ただ)しきに当(あた)れるなり。
- 上六(じょうりく)引兑(いんだ)、未(いま)だ光(ひかり)となさざるなり。
解釈:
平穏な和悦が吉であるのは、行動に疑いがなく、正道を行くから。
誠意による和悦が吉であるのは、心が誠実であるから。
媚びによる和悦が凶であるのは、自分の立場や態度が相応(ふさわ)しくないから。
九四が喜びを得るのは、慶事(けいじ)があるから。
小人に誠意を尽くすことが危険なのは、尊い地位にあるにも関わらず、それを十分に見極められていないから。
上六が人々を導いて和悦させるのは、和悦の道理がまだ広く光(ひ)が当てられていない段階だから。
よくある質問
兌卦は吉ですか、それとも凶ですか?
答:兌卦は上吉の卦です。和悦であり正道を守り、誠意を持って交われば吉となります。しかし、媚(こ)びへつらって悦ばれようとしたり、小人(しょうじん)を軽信すれば凶となります。
兌卦の「朋友講習(ほうゆうこうしゅう)」とはどういう意味ですか?
答:朋友(ほうゆう)と共に集い、学問を切磋琢磨(せっさたくま)し、道理を講習(こうしゅう、学び習う)することであり、これが和やかに交わる正道です。
兌卦はどのような場面に適していますか?
答:対人関係、友人との交流、コミュニケーション、チームの和楽(ちらく)など、和やかさを求められる場面に適しています。逆に、媚びへつらい、虚偽(きょぎ)の情(じょう)しかない場面には適しません。
人間関係や感情に関して兌卦を得た場合、どのような啓示がありますか?
答:和やかで誠実であること、媚(こ)びへつらいも卑屈(ひくつ)にもならないことが望まれます。初九、九二の爻の状態であれば吉となりますが、六三の爻のように媚びへつらうことは慎まねばなりません。また、九五の爻のように小人を軽信することにも注意が必要です。
兌卦と巽(そん)卦との関係は?
答:巽(そん)卦は謙虚で従順、奥深く浸透することを主とします。一方、兌卦は和やかな言論と対話、外は潤い内は和らぎを主とします。両者は互いの綜卦(そうか) (反対から見た卦)であり、一方は順うこと、他方は悦び合うことと、互いを補(おぎな)い合う関係にあります。